雨が降るたびに季節の変わりを感じます。
日差しはポカポカでも風がまだ冷たいですが、春はもうすぐですね。
さて、先日「熟成古酒」の研修会に参加いたしました。
講師は「長期熟成古酒研究会」の顧問・梁井宏先生です。
熟成古酒を様々な観点・視点から研究されていて、
私達が飲酒する目的の変化や熟成古酒の歴史、定義、科学、楽しみ方などをお話になりました。
まず、何故日本酒は長期熟成する文化が浸透していないのか?という疑問からです。
最近では和食屋さんやお寿司屋さんでも目にするワインは、ギリシャ時代の頃には既に熟成する技術があったそうです。
日本でも実は昔から熟成古酒はありましたし、今でも作っている酒蔵は意外とたくさんあるのですが、
日本酒といえば「新酒」、しぼりたてのフレッシュなお酒がやはり人気ですよね。
島美人でもしぼりたてそのままのフレッシュな香味が特徴の本醸造生酒原酒は一番の人気です。
ワインはブドウが豊富に採れると昔からお酒にして保存するという文化が根付いていました。
日本酒の原料のお米は、まず米が豊作で余る、ということが歴史的にまず無かった上、
すぐ腐敗してしまうものでもないので、そもそも酒にして貯蔵する、という文化が無かったようです。
しかしながら、熟成古酒、というのは鎌倉時代からあったということが文献で記されています。
実は酒を長く保存できる技術・殺菌技術は鎌倉時代から確率されていたという証明にもなりますね。
江戸時代にもいくつかの文献で残されていますが、
「3~5年漬けた酒は味が濃い 7~8年漬けた酒は味が薄くなるがなお良い」
というのはまさしく熟成古酒の複雑さを表しています。
7~8年漬けているのに味が薄い...?というのは、成分や滓が沈殿して調和が取れてくるのではないか、との見解で、薄いのになお良い、というのはそれだけ味に深みが広がる意味合いなんですね。
「三年酒 下戸が苦しむ 口当たり」という文献も残されています。
川柳になるほど民間に熟成古酒が浸透していて、下戸でもついつい飲んでしまって後々苦しむ、という記述です。
他、将軍が毎日のように真っ赤な酒の香りが嫌な香りだ、と大奥の女性が言っていたという記録。
現代でも熟成古酒については男性の方が面白いと感じていらっしゃるようですが、
江戸時代でも女性は苦手な方が多かったのかもしれませんね。
現代では長野県の大澤酒造さんが280年漬けたお酒をあたため続けていたそうです。
100年漬けたチェリーのような香りがしたそうで、度数はなんと24度もあったんだとか!
古酒は長く漬けていると、水の分子よりアルコール分子の方が大きいため、
先に水分が蒸発してアルコールが濃く残るようです。
開封した瞬間から蔵中にチェリーの香りが漂ったそうで、一度は目にしてみたいお酒ですね。
さて、「熟成古酒」というものはじわじわとツウの間で人気が出てくるものの、
純米大吟醸や本醸造などといった、特定名称酒には指定されていません。
ただ、長期熟成古酒研究会の皆様が先駆けとなって、
「糖類を添加しない日本酒を満3年以上貯蔵熟成させたもの」という定義がつけられています。
日本酒には大吟醸、本醸造、純米、生など色々種類があり、
長期熟成してみるとそれぞれに味も色もタイプが分かれてきます。
淡く薄めの色は吟醸系などのスッキリと飲めるお酒を漬けた淡熟タイプのもの、
濃くしっかりとした色は生酛系や本醸造などのしっかりとした味のお酒を漬けた濃熟タイプのもの、
そしてその中間のタイプ、
...と大きく分類されますが、一概には言えないところも熟成古酒の面白いところですね。
研究会でも試飲できる熟成古酒が何点かあり、私も少しいただいてみましたが、
今まで香ったことのないような深くて濃い香りが印象的でした。
お酒が弱い方だと香りだけで酔ってしまいそうなほど濃い香りですが、
強くはないけれどお酒が好きな私にはたまらない香りです(笑)
それぞれでもちろん味も違うし香りも色も全く違います。
同じお酒を3年漬けたものと5年漬けたもの、との比較もできたのですが、
3年だけでは「私の好みとは違うかな...」と思ったお酒も5年では「美味しい!」と感じられるお酒に。
まさしく江戸時代の記載にあった、「味が薄くなるがなお良い」というものそのものです。
薄い、とも違うのですが、口当たりがまろやかで香りが深く濃くなる、といった感覚でした。
島美人では販売していませんが、今ではスパークリングや低アルコールなど、日本酒も様々な種類で販売されています。
その中で熟成古酒というお酒は日本酒に馴染みのない方がいきなり飲むにはかなり抵抗もあるのかと思いますが、
薄い黄金色の吟醸系を漬けた淡熟タイプの古酒ならツウの方から女性や初心者の方でも比較的飲みやすいかな、と感じました。
元のお酒と全く味が違う!というほどの変化を求めるなら濃熟タイプですが、
淡熟タイプは口当たりが滑らかですべりが良く、比較的サラっとしています。
私も日本酒はまだまだ勉強中、初心者に近いので、この淡熟タイプが飲みやすくて好きだな~と思いました。
以前お食事に行ったお店でもいただいた梵さんの「吉平」は二年熟成だったのですが、
うっすらとした黄金色でスッキリ飲めるのに後味が複雑で深くて幅の広い味わいで、
とっても美味しくいただきました。
ツウの方は濃熟タイプを人肌くらいの温度で飲んでみると香りがより際立って面白いかもしれません。
そして面白いな、と思ったのが、達磨正宗さんの熟成古酒「未来へ」
今や生まれ年のワインをお誕生日にプレゼントしたりすることはそこまで珍しくもないのかもしれません。
ワインはそれだけ長く漬けておく文化が元からありましたし、
昨今のワインブームでご自身やプレゼントする方に縁のある年のワインを、とドラマなどでも使われたりしていました。
何より、やはり自分に縁のある年のものというのは特別な思い入れがありますよね。
そういったことも今のワインブームの理由の一つとなっているのでしょうが、
日本酒でもできるんです、熟成古酒!
しかも熟成古酒を"買う"のではなく、ご自身で"作る"んです。
例えば赤ちゃんが生まれたときに、二十歳になった子と一緒にお酒を飲みたい、という夢は、
お酒好きな方なら多くの方々が思うでしょう。
そこで買ってきた熟成古酒を飲むのではなく、ずっとご自宅であたため続けて作りあげた熟成古酒を開けるというのは、
喜びも一層高まるのではないかなと思います。
実は買ってきた日本酒を独自に漬けてらっしゃるツウの方もいらっしゃいます。
「○○のお酒は長く置いてるとこんな味がするんだよ~」とイベントで教えてくださる方も(笑)
お酒好きな方ならご自身で漬けた日本酒は宝物のように感じることと思います。
まだあまり目にすることのない熟成古酒ですが、様々な可能性を秘めています。
そしておそらく、今まで香ったことのない香り、口にしたことのないような深い味わいが楽しめます。
目にしたら一度は試してみる価値が必ず熟成古酒にはあります。
是非皆様も試しに飲んでみてくださいね~!
少しクセがあってもヤミツキに...!なんてことがあり得ます(笑)
長期熟成古酒研究会ではツイッターやFaceBookも設けています。
イベント情報なども掲載されていますので、ご興味のある方は是非覗いてみてくださいね!